みずほフィナンシャルグループ傘下で、大企業・多国籍企業や金融機関を担当するみずほコーポレート銀行は、2007年6月、邦銀のトップを切って中国の支店を現地法人化。以降、当初5カ所だった拠点ネットワークは2年の間に計10拠点にまで拡大している。
そんなみずほコーポレート銀行の齋藤会長に、支店の現地法人化や人民元の切り上げ、さらには「人民元国際化」についても聞いた。また、無錫・大連の名誉市民、 武漢の国際諮詢顧問でもある会長の中国観にも迫る。
大胆に現地化を推し進め中国と共に発展
――中国へはよく行かれますか?
今まで中国には30回以上行っています。頭取になってからの7年間でも大体年間に2、3回は中国を訪れています。
回数的には北京や上海が多いのですが、今年6月の出張は上海と武漢西安に行きました。
――中国の好きなところはどこですか?
中国はどこへ行っても歴史がありますし、自然も素晴らしいと思います。もちろん北京や上海なども素晴らしい都市だと思いますが、その中でも個人的にはやはり(名誉市民や国際諮詢顧問でもある)無錫・大連・武漢に愛着と思い入れがあります。引退したら家を買って過ごしたいくらいです。 これらの都市がより成長して欲しいと願っています。
最近訪れた武漢では、街のたたずまいに大変な躍動感を感じました。中国の中部都市としてまだまだ伸びることを期待しています。
邦銀のパイオニアとして中国で事業を展開
――会長と中国とのつながりは深いと聞いていますですが、きっかけは何でしたか?
頭取になる前から、日本経済・産業にとって、中国とのビジネスは今後とも大きなウェートを占めていくだろうと思っていました。そのため、この銀行のグローバル戦略の中でも中国との関係強化は大変重要であると考えました。
2002年の4月に頭取になって最初に訪問した国は、アメリカではなく中国です。大連から入りまして、北京・上海・深セン) そして香港と1週間程度のスケジュールで回りました。
その年の7月には、日本の銀行では初めて本店に中国営業推進部という専門の部署を作ったのです。日本の企業で中国進出を考えているお取引先に、具体的な投資の手続きや戦略についてアドバイスする部署です。日本の企業が中国へ進出する際には、アメリカやヨーロッパなどとはまた異なる専門的な知識やノウハウが必要になります。中国営業推進部には現在40名ほど人員を配置しており、お取引先の様々なニーズにお応えすると共に、ビジネスにも結び付けています。
そういう意味では、私が頭取となってから、すぐに中国との関係を重視し体制を強化したことは正解だったと思っています。
――2007年6月、邦銀で最初に現地法人を設立されましたが、現地法人設立を決断された理由は何でしたか?
現地法人を設立するということは「中国の銀行」になるということであり、拠点の開設やお取引先へのサービス向上の観点から有利と判断したからです。
また、中国国内に本部機能を設置することで、営業体制や拠点拡充など中国に密着した戦略展開がスピーディーにできることもメリットと感じました。
以前は一つの支店を開設するのに、2、3年かかっていましたが、現地法人設立後は、天津・大連経済開発区出張所・青島・広州・武漢と2年間で五つの 拠点を開設できました。もう一つのメリットは人民元取り扱い業務です。邦銀の支店の場合はなかなか取り扱い認可がおりなかったのですが、現地法人設立後にできた五つの拠点に関しては、開業とほぼ同じタイミングで人民元を取り扱えるようになりました。今は中国のすべての本支店で人民元を取り扱っています。
現地法人の本店は現時点で世界一の高さを誇る上海環球金融中心に置いています。
――現地法人の取引先は日系企業が多いのですか?
現在約5000社とお取引がありますが、8割強は日系企業です。残りが中国の企業、あるいはアメリカ・ヨーロッパなどの企業です。これからは日系企業とのお取引で積みあがった経験やノウハウを生かして、中国の企業との関係もより強化していきたいと考えています。
――日本の企業が中国でビジネスを展開するにあたっての今後のポイントについてお考えをお聞かせ下さい。
日系企業の中国への進出については、過去何度か対中投資ブームとも言えるうねりがありました。1992年の邓小平氏の南巡講話や、2001年のWTO加盟にともなう規制緩和をきっかけとした動きがその代表例でしょう。そうした中で製造業を中心とした加工・輸出型の進出形態に加えて、中国の内需の取り込みを狙った進出が次第に増加してきました。今回の世界的な経済危機の中で、日系企業にとって「中国内需」の重要性は増しています。「工場」から「市場」への変化は加速することになるでしょう。
今後は、日本に隣接し拡大する「中国内需」を日本の内需の延長として捉え、まるで一体であるかのような認識で取り組むことが重要になると思っています。グローバルな視点の下で中国での現地生産比率を高めるとか、販売拡大を推進するといった対応を機動的に行うと共に、技術移転も含めた腰を据えた取り組みも進めていくことが大切です。
日本は電力や鉄鋼をはじめ世界ナンバーワンの省エネ技術を有する産業が多く、金融面からもサポートすることでその技術を中国に移転することができれば大きなビジネスにもなるでしょう。
このように、日本企業の対中ビジネスは引き続き大変有望だと考えています。
――対中ビジネスは難しい、という意見もありますがどうお考えですか?
もちろん、外国とのビジネスですから、法律制度や商慣習の違いに起因する難しさもありますが、最近の中国の動きを見ていると、2001年のWTO加盟を契機に国際的な契約ルールに変わってきていると感じます。日本の企業も以前に比べれば確実にやりやすくなっていると思います。
今後は、販売・研究開発機能強化や、事業提携の模索、M&Aによる経営権の取得なども含め、日本企業の進出形態や中国市場とのかかわり方はますます多様化していくことでしょう。みずほグループもそのような取引先の動きを積極的にサポートしてお役に立ちたいと考えています。
発展の余地が大きい中国の金融市場
――昨年からの世界的な金融危機の影響はありますか?
中国現地法人は金融危機の影響を受けておらず、非常に順調です。景気が過熱したので、中国政府も貸出枠を抑制するというような動きをした時期もありましたが、世界的な金融危機の影響を受け、人民銀行はただちに貸出抑制策を止めて、貸出枠を増やすという方向に転換しています。
――先ほどの話で、世界的な金融危機の中、なぜ中国はあまり影響を受けていないと思いますか?
中国経済は高度成長期にあるため、中国の主要銀行が国内の資金需要に応じることに重点を置いていたことも要因となって、ヨーロッパやアメリカのサブプライムローンとのかかわりが小さかったということだと思います。中国が金融危機の影響を受けなかったことは、結果的には中国だけでなく世界経済から見ても良かったと思います。
また、中国には日本の消費税にあたる基本税率17%の増値税と呼ばれる付加価値税収入が歳入の約3割を占めています。私は、これが中国の財政にゆとりをもたらしている理由の一つではないかと見ていますが、4兆元(約57億円)もの内需拡大策を機動的に打ち出すなど財政運営も極めて的確でした。
――日本から見ると中国は金融制度の面ではまだまだ発展の余地があると思いますが、どうお考えですか?
今の経済規模からみれば、今後さらに体制を整備する必要性はあると思います。そういった点に関しては、私どもも体制整備のお手伝いに協力していきたいと考えています。たとえば債券を発行する資本市場の整備はこれから本格化していくはずです。みずほグループは日本国内での金融債発行・流通ノウハウを有しており、このノウハウは金融市場改革を進める中国でも活用できるものと期待しています。
また、シンジケートローン(協調融資)についても、中国の金融機関や金融当局に対してレクチャーや資料の提供を行うなどのお手伝いをしています。
さらに、お取引先のニーズを発掘する上では産業に関する深い理解が必要ですが、みずほの産業調査機能は他の邦銀にはない強みであり、中国のお取引先にも高い関心を持っていただいています。
インタビュアー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆
『月刊中国NEWS』 09年10月号掲載
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