1997年に青島ビールとの合弁会社を設立するなど、以前から中国でのビール業界に大きな影響を与えてきたアサヒビール。最近では、山東省での農業・酪農事業や工場での環境対策に力を入れるなど、中国の環境問題や食の安全安心にも積極的に取り組んでいる。社長時代に中国の食品大手康師傅(カンシーフ)と飲料事業を成功させ、アサヒビールで中国ビジネスの先導役を果たしてきた池田会長に、中国でのビジネスの現状や今後の展望を聞いた。
中国でのビール販売の伸びは順調
――不況はビール業界にも影響していますか?
日本では影響が出ています。日本は人口が少し減っていますので、アルコール市場全体の縮小に伴い、ビール類市場も少しずつ縮小しています。昨年はそ4%ぐらい下がりましたので、不況の影響が出てきているのかもしれません。もう一つは酒税の関係で、ビールと発泡酒と新ジャンルの三つの価格帯のビールがありま
すが、一番安い新ジャンルのウエイトが高くなって、それが発泡酒と逆転しました。今まで構成比が23ポイントぐらいだったのが、25ポイントぐらいに上がりました。そういうところに不景気の影響が出ていると思いますね。
―中国での販売はどの程度伸びていますか?
この10年ほど非常に大きく伸び、2003年以降世界最大の市場になっています。昨年の伸びは4%位と少し伸びが鈍化しましたが。我々のスーパードライをはじめとするアサヒブランドは昨年9%、現地ブランドは2%伸びています。我々が中国で売っているのはスーパードライと北京・杭州・煙台・深曙V・青島
の現地ブランドのビールがあります。
――中国現地のブランドと組んでいますが、成長率はどのくらいですか?
1994年から中国に進出しています。北京・杭州・煙台・深曙V青島を入れたトータルの売上げは今、中国で7番目ぐらいのグループです。ですから非常に順調に伸びてきたといえます。
上海にはスーパードライを売る販社があり、現地ビールよりも高いビールを先に売っていこうということで、アサヒスーパードライと赤いアサヒビールの2本立てでやっています。売上げの伸びもいいです。杭州ビールを拠点にして出し
たいとも思っています。
来年の万博には大いに期待していて、上海での営業活動を強化しているところです。オリンピックの時も北京では力を入れていました。期間中は規制が厳しかったのですが、その前後がだいぶ動きましたから、トータルとしては随分成長しました。15%ぐらいの成長です。
ビールはその国の文化そのもの
――現地のビールと日本のビールは味が違うと思いますが。
やはり飲み物食べ物というのは、その国の風土や文化などによって違うと思うのです。中国料理と日本料理の味付けは違いますし、中国の方が日本の中国料理を食べると少し物足りないと思うのと同じで、我々が中国の日本料理食べると少し物足りないと思いますから。日本のビールの味と中国のビールの味は違います。
中国のビールは、まずアルコール度数が日本のビールより低めです。日本のビールは味を強める意味で発酵を高めているので、我々のスーパードライですと5%ぐらいです。中国のビールはメインで売られているのは3%台から4%を切るぐらいでしょう。まずそういう違いがあります。それから、中国のビールもあっさりした風味のすっきりしたものが増えてきている感じがしますね。これは我々が青島ビールと深曙Vで合弁した1997年頃からだと思います。日本では、より新鮮な風味ということで、熱で殺菌していない生ビールがメインです。中国ではまだそういうものは十分にできていなかったのですが、青島ビールもそういう技術を勉強したいということで、深曙V青島ビールという合弁会社を深曙Vにつくりました。今青島ビールも純生という商品を出していますが、そこからできたのです。他のビール会社も今、生ビールが増え始め、次第に日本のタイプのビール作りが増えてきています。同時に品質も上がってきています。
――会長が初めて青島ビールを飲んだのはいつですか?
私は入社して5~6年目のまだ27、8歳ぐらいの頃です。北九州市の担当をしていて、今の小倉区で華僑のみなさ
んと随分親しくしていました。そういった中華料理屋に青島ビールは当時からありましたから、飲んだ記憶があります。輸入のビールなので、当時は日本のビールに比べると日にちが経っているなという印象がありました。
――今の中国現地のビールの味はどう思いますか?
十数年前には中国全土で800ぐらいのビールのブランドがありました。大小さまざまで、技術水準に関しても高低差があり、味のばらつきも大きかったわけです。今はブランドとしては300くらいになったのではないでしょうか。だんだん大きなグループに資本が集約化されてきています。そういうことで品質も上がってきていると感じます。
――中華料理の味も変化してきたのは、ビールのおかげとも言われています。
食事はビールやお酒を飲みながら、食べるのが一番楽しいと思うんです。それまで中国は白酒がメインで、お酒を飲んで酔っ払う人と食べる人に分かれていたのではないでしょうか。今はビールもあり、アルコール度数も低いですから、みんなで飲み、そして食べながら楽しむことができる。そういう新しい食事の文化が定着しているのではないかと思います。
環境・食品安全気運の高まりはチャンス
――アサヒビールは環境問題に力を入れていますね。
北京ビールの工場を建設する時に北京市から、オリンピックを迎えるにあたって「グリーン北京」をキーワードにするというお話がありました。そこで、アサヒビールは日本で環境に対して積極的に取り組んでいるので、中国でのモデル工場になるようなものを作ってくれないかと言われたのです。
そこで、当時日本で環境対応としてやっていた様々な技術を北京ビールに持ち込みました。端的な例は排水処理です。排水処理技術が大変進んでいるので、処理した水で金魚が飼えるほどになるのです。実際に日本の工場では小さな池を作って、そこに金魚を排水で飼っています。日本ではビール工場では廃棄物がないようにしているのです。再利用率は100%で、中国ではまだ100%にはなりませんが、96%ぐらいまでは活用できるようになっています。
それから、3年前から山東省で始めた農業事業があります。これは山東省の省長からちょうど三農問題のことがあり、日本の循環型農業を導入したいと言われたのがきっかけです。我々は農業をやったことがなかったのですが、中国でお役に立てるならと、伊藤忠商事さんや住友化学さんなどの協力を得て、今やっているところです。これは土壌の改良からやっていますから時間のかかるプロジェクトになります。
中国の農地は農薬使用量が多いところもあり、それが問題になっているので、土作りから始めようということです。土作りのためには堆肥を作らなくてはならないので、オーストラリアとニュージーランドから輸送し牛を飼いました。もうすぐ2000頭になります。当時は原料牛のみ販売していましたが、富裕層には高品質な牛乳のニーズが高いこともあり、「朝日唯品」というアサヒブランドの牛乳を出しました。ちょうどその時期にメラミンの問題が起きたので、大きな話題となりました。
ビール会社であり、また他の飲料も作っていますので、中国の食の安全安心や環境に協力できることは我々の仕事を通じて、積極的に日本と同様にやっていきたいのです。日本だからこうだ、中国だからこうだということではなくて、我々がやっている事業はすべてそういう考え方で常に努力し、結果として中国の役に立てればいいのではないかと思っています。我々の中国進出の目的は、安い賃金やインフラを使って中国で作ったビールを日本で売ろうということではなく、中国の市場でプレイヤーになり、中国の消費者やお客様に歓迎してもらえるような会社になることです。ですから、そういう商品を作らないと我々の将来の発展はないのです。
――中国も食品安全に力を入れてきていますが、それはチャンスと捉えていますか?
環境や食に対する安全安心の意識の高まりというのはビジネスチャンスです。今の日本のお客さんも中国のお客さんも単に大きな会社であるとか、有名な会社だからとか、ブランドが売れているというだけではダメで、やはり環境によく取り組んでいる、CSR(企業の社会的責任)のレベルが高い企業を目指していかなければなりません。日本でも中国でも、ただ宣伝をすれば売れるという時代ではなくなってきているのです。
成功するパートナー選びについての続きは、本誌をご覧ください。
インタビュアー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆
『月刊中国NEWS』 09年6月号掲載
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