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第22回 防衛大臣 北澤俊美



民主党の鳩山政権となり1カ月たった10月23日、自ら「新米大臣」と言う北澤俊美防衛大臣に、本誌編集長・張一帆がインタビューした。インタビューでは、沖縄にある米軍の普天間基地移転問題や、鳩山首相の東アジア共同体構想、「友愛の海」の理念など、世間の注目が集まる鳩山内閣独自のコンセプトに言及。また北澤大臣は、今後の日本防衛と日中の防衛関係についても話し、日中防衛交流の継続の重要性について語った。


日本の防衛に関する将来をイメージさせるに十分な北澤大臣の発言は、「友愛」をキーワードとする鳩山政権の姿をはっきりと浮き彫りにしているといえる。



日米関係は日本にとって一番の基本


――アメリカのゲーツ国防長官との会談はうまくいきましたか?

ゲーツ国防長官には、私のこの仕事に取り組む気持ちをしっかりお伝えして、それから会談に臨みました。中身は、「ロードマップを実行してほしい」という側と、「政権交代ができたので少し時間がほしい」という側の会談で、基本的にはいい話し合いができました。ゲーツ長官は、「近いうちにまた会いたい」ということでした。


――政権交代しても日米関係にあまり大きな変化はありませんね。


基本的に外交というのは大きな変化があってはいけない話ですし、民主党も日米関係はわが国にとって一番の基本ですから、それを壊すようなことは極力してはいけないということで、先日の会談も進めました。


――日米の一番の問題は、普天間基地移転問題です。これはうまく解決できそうですか?


これは解決しなければならない問題です。確かに、13年かけて作ったロードマップ通りに行きましょうというのは、アメリカの立場としては当然のことですが、私たちも日本にある米軍基地の75%を沖縄に押し込んでしまっているので、沖縄のみなさんの気持ちを大切にしなければいけないという政治的な使命もあります。そういう意味では、自民党政権時代に政府が決めたことを、我々自身がレビューして、納得できるものなのか、あるいは少しは変更しなければならないものなのか判断している最中なのです。なるべく早く方向性を固めたいと考えています。


――日本のある新聞のコラムに「鳩山政権は防衛軽視」と載っていましたが、それについてはどう思われますか?


全くそのようなことはありません。防衛は専守防衛、もっぱら自らを守るのみということにはなっていますが、防衛をおろそかにするなどということは全くありません。ただ、自衛隊の近代化というものなどにともなって、防衛費が近年少しずつ減っているのは事実です。連続7年、ほぼ小泉内閣時代から減っています。この時、財政合理化や財政再建という観点から実数を減らしてくということがありました。また、アメリカとソ連の冷戦時代の防衛体制と今のミサイルやテロといった国際危機の中の防衛体制とでは、対応が少し変わってきたというのも原因になっています。



互いの関係をリーズナブルに感じられる関係が大事


――日本の防衛費が減る一方で、中国は軍事費が増加傾向にありますが、どう思われますか?

それぞれお国の事情がありますから、私が中国の防衛政策に関してとやかくいうことは慎まなければならないと思いますが、中国もこれからの技術革新の中で、空と海に軍事力を傾注させているというのは、世界情勢・アジア太平洋情勢を見ればうなずけることではあります。ただ、お隣の大国・中国があまりに軍事力を強めるというのはいささか心配の種ではあります。とはいえ、今日本と中国の関係は非常に良好です。互いが相手の状況をリーズナブルに感じることができる関係というのは非常に大事です。



――10月1日に行なわれた中国建国60周年の祝賀パレードはどうでしたか?


すごいですね。まさに、アジアにおけるというよりも世界における大国ということを実感しました。



――でも装備の技術面はまだまだですね。


でも、進歩してきたと思います。軍事交流も中国とはきちんとできるようになったので良いのではないでしょうか。今度、中国の練習艦「鄭和」が来られます。中国の艦艇を迎え入れることができるのは大変良いことだと思います。



「友愛の海」は繁栄の幸せ感から来るイメージ


――東アジアの防衛をどう考えますか?

鳩山首相が、「この東アジアの海を友愛の海にしたい」とおっしゃっています。わが国にとって日米同盟は欠くことのできないものであるということは何の異論もありませんし、大事にしなくてはいけないと思いますが、しかしこれからの日本は、アジアのみなさんとの連携を欠いて発展は望めませんので、鳩山首相は東アジア共同体構想を持っているのです。とはいえ、これはどのような形で、どのようなことをするかというような明確なものはまだイメージしておりませんので、これから鳩山政権が各国と連携を密にしていく中で、形が見えてくるのではないかと思っています。



――「友愛の海」とは具体的にはどういったものですか?


鳩山首相の「友愛の海にしたい」というのは、東アジア共同体というものをイメージの段階から実体的なものへ進めていく中で、そこに参加する国々が共に繁栄していく、その幸せ感が反映されたものが「友愛の海」ということになるのでしょう。


――与那国島から、防衛の観点で自衛隊に駐屯してほしいという希望も出ていますが、それはどう考えていますか?


(大臣)就任の際、「近隣諸国に刺激を与えるようなことは、慎重にするべきだ」と言ったことで、非難する人が多くいました。ただ、新政権ができたからといって、今まで前政権がやらなかったことを積極的にする必要はないと思います。ですが、国の守りという観点からどうしても必要だという議論が出てくれば、それはまず国民の意思として、選択肢はゼロではないということです。東シナ海の開発であるとか、そういうことに絡んで是非防備を固めるべきだという議論があるのは事実です。



東アジア共同体構想と「友愛」


――日米同盟は50年経ちましたが、日中同盟は必要だと思いますか?


どのような形がいいかは別ですが、隣国同士ですからあらゆる形で連携を密にしていくというのはきわ

めて大事です。


小泉政権の「政冷経熱」といわれた当時、民主党を中心に議員連盟を作ってほしいと私が頼まれたことがあります。それで、日中経済推進議員連盟というものを作り、当時100人以上議員が集まりまして、私が会長になり中国へ行って覚書の締結などもしました。私は大臣になりましたから会長職は降りましたが、海江田万里議員が復活したので、海江田議員に代わりにやっていただくようにお願いしました。


――東アジア共同体構想には防衛の観点からどのようなアプローチがあると考えますか?


私も鳩山首相の東アジア共同体構想というのをお聞きしていますが、非常に大きな考え方をしていまして、東アジア全体の中でお互いが共存共栄を図っていくというところまでしか行っていません。ですからどこの国が入り、どこの国が入らないであるとか、何をするかに関しても決まっていないのです。EUのようにして、通貨を1つにする、という方向には向かわないだろうと、鳩山首相も言っていますから、もっとゆるいものを想像していただければと思いますが、まだまだこれからです。


――アメリカを参加させるかということも話題になっていますが?


そればかりが話題になってしまって、鳩山首相が意図したところとはずいぶん違うことになっているのではないでしょうか。どんな形のものをつくるかというものの中から、アメリカの存在というものもまた考えられるのです。アメリカを入れるか入れないかということで話が進むと、鳩山首相が目指している「友愛の海」も、中心にすえたい「友愛精神」も壊れてしまうので、そこは鳩山首相も真剣に考えているのではないでしょうか?


――やはり東アジア共同体に関しても経済が中心で、防衛は二次的、三次的なものですね。


そうですね。経済を中心にして連携し、お互いが豊かになれば、それは当然防衛をどうしていくかということになるのではないでしょうか。


――鳩山首相の理念である「友愛」を防衛の場でどう表現されていくと考えますか?


なかなか難しいですが、「友愛」とは将来ビジョンなのです。鳩山首相はこう言っています。


「友愛とは、自分の自由と自分の人格の尊厳を尊重すると同時に、他人の自由と人格の尊厳をも尊重する考え方です」と。

防衛省と自衛隊は国民の生命と財産を守るために様々な活動をしており、鳩山首相の言われた理念を踏まえながら、これから任務の遂行を図っていきます。まさに「自分の自由と自分の人格の尊厳を尊重すると同時に、他人の自由と人格の尊厳をも尊重する」ということを基本にすれば、日本という国の自衛隊が日本の憲法の9条を基本にして、専守防衛ということで成り立っていますので、非常にマッチしていると思います。まさに他人の自由も人格も侵さないということです。ただし、専守防衛ですから、自分に向けられた危険からは国民のために守らなければならないということでもあります。




「中国がいよいよ空母を持つのかという思いはあります」


――中国は空母建設を考えていますが、大臣はこれをどう考えますか?


日本は空母を持つという意思はまったくありません。専守防衛ですから、攻撃型空母を持つ気はないのです。ただ、アジアの大国・中国がいよいよ空母を持つのかという思いはあります。


――中国から攻められるという感覚はありますか?


中国とはきちんとした友好関係が結ばれていますし、これからも大切にしていくということであり、国と国との友情はかなりハイレベルなところまできていますので、そのような感覚はありません。


――日中の防衛交流についてお聞かせください。


2007年に中国艦艇「深圳」が訪日していますし、2008年に海上自衛隊の「さざなみ」が中国を訪問して、艦艇の交流が始まりました。今度は「鄭和」においでいただきます。まず継続していくというのが重要でしょう。また、人民解放軍の青年将校と自衛隊の若手幹部の交流として、日中尉官級の相互訪問というのが2008年から実現しまして、これは日中の国防関係の人たちの交流も重要ですから、大事にしていかなければいけないと考えています。


それから、今言った防衛交流ということを進めて日中間の信頼関係を強化していく一方、中国が軍事力を強化していく中で、透明性が非常に重要だと思います。透明性がないと疑問が生じて、疑念に発展して脅威を感じるという形になりますから、両国が良識を持ってお互いに透明性を確保していくことがきわめて大切なのです。本当にその国の心の中にないものを相手に脅威のように感じさせるというのは非常に知恵のない話ですから。



インタビュアー :『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆


『月刊中国NEWS』 09年12月号掲載


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