カメラといえばキヤノンというほど、カメラ技術で有名なキヤノン。しかも内田恒二社長は、カメラ開発出身というからまさにカメラの専門家だ。当然、中国でもキヤノン製カメラの人気は高く、特に一眼レフカメラは中国市場でナンバーワンのシェアを誇る。そんなキヤノンが中国で今力を入れているのがインクジェットプリンターだ。今度はこの分野での中国シェア・ナンバーワンをねらう。 また、キヤノンはカメラにしても、インクジェットプリンターや複写機であっても、世界の同じ場所で作った同じ商品が、世界でほぼ同時に販売されているグローバルな企業だ。それだけでなく、環境保護の基準も高く、世界的に統一された社内基準があるという。キヤノンが日本だけでなく、中国やその他の国々で愛される理由を内田に聞いた。
インクジェットプリンターで中国一を目指す
――広いですね。大学のキャンパスかと思いました。
ここ10年で建物を一新しました。20年以上前、もともとここは現在の敷地の4分の1しかありませんでした。しかし思えば、都内である程度の敷地の本社ビルを持つ会社は少ないですね。
――駅の名前もキヤノン駅にすればいいと思いますよ。
そうですね。豊田市は昔、拳母(ころも)市でしたから。ただ、名前がキヤノンではそぐわないかもしれませんが(笑)。
インクジェット販売拠点の強化
――中国の上海などに行ってもキヤノンの看板を見かけます。中国には非常に力を入れていますね。
はい、力を入れています。この21世紀になってから中国の開放政策が軌道に乗り、市場が開けてきて、デジタル化の波でカメラにしろ、複写機にしろ、プリンターにしろ、需要が急拡大しました。そもそも中国市場は20年ほど前、カメラから入りました。それが21世紀になりカメラもデジタルカメラになり、世界の市場が伸び、それまでは中国の市場というのはあまり拡大できなかったのですが、開放政策で特にこの5年程度はすごい勢いで伸びています。とりわけ、コンシュマーの商品が受け入れられるようになり、リーマンショック以降世界経済が落ち込んでいたところに、中国はGDP(国内総生産)を大幅に伸ばしました。我々のようなコンシュマーの商品を扱う会社は、GDP以上に伸びないと業界内のシェアを拡大できません。そういう意味では、他の地域で売れているわりに中国で売れていなかったインクジェットプリンターが、少し拡大傾向にあります。 以前、弊社の商品は上海で弱かったのです。市場があるのにどうしてなのかということで昨年、御手洗会長から「インクジェットに力を入れてください」という話が出ました。やはりカメラに比べインクジェットの販売拠点が少し弱かったのです。 中国の市場を拡大するには、中国のお客様と協力しなければなりません。ですから、急に広げることはできません。販売の営業力アップはやはり中国の方々にやっていただかなければならないでしょう。日本人でも中国語がうまい人間をつぎ込もうと計画しています。
――中国での販売で先頭に立っている人は日本人ですか?それとも中国人ですか?
インクジェットの部門には日本の一番優秀な女性を送り込みました。30代の女性です。
中核は光学技術
――キヤノンのカメラ技術の特徴は?
光学レンズの性能が一番いいところです。光学の技術をだんだんと広げて、複写機の技術にも使っていますし、それから複合プリンターも光学技術を使います。ですから、そういった光学技術をもとにした事業拡大をしています。また、今は事業を預けていますが、計算機の事業もしていました。これはエレクトロニクスの力が必要です。そのエレクトロニクスが生きているのが今のデジタル技術です。そして、デジタル技術にプラスして、複写機やプリンターでの画像処理技術も重要だと言えます。これには電子写真の技術とインクジェットの技術という二つの技術が必要になるのです。また、複写機でもインクジェットでも化学の技術が必要です。そういうものが、それぞれの事業で養われ、応用されてきています。その根本にあるのが光学なのです。 これからは、入力から出力までのあらゆる技術を駆使して、一番いい写真と一番いいプリントをお客様に楽しんでもらえるようにしてきたいと考えています。こうした一連の技術を持っている企業は他にありませんから、この強みをどうやって生かすかがポイントです。
――インクジェットプリンターの中国市場におけるシェアはどれくらいですか?
まだまだ低く30%ほどです。まだ上がいますから。その他、コンパクトデジタルカメラは30%ほど、一眼レフは45%ほどです。
従業員の心と障害情報の伝達でミスを防ぐ
――トヨタのリコール問題では品質が問われています。日本の製造業は20年前に比べ、落ちていますか、それとも向上していますか?
品質を管理するという面では20年前よりもずっと向上していると思います。品質を管理するには、従業員がまとまり、末端まで会社の方針が行き届いていないといけません。これのどこかで力が抜けてしまうと、ミスが起きてしまいます。従業員がどのような気持ちで働いているかということが重要です。
今回、香港へ行ったのは珠海が20周年を迎えたそのついでです。珠海で主力として働いているのは中国の人々で、董事長などは日本人ですが、その下の部長クラスは全員が中国の人です。その人たちが、周辺の中国の協力会社と付き合っていますから、コミュニケーションの問題はありません。ここで各事業所の中国の核心活動であるとか、我々の技術展などを開いています。すると、生産会社の人たちがみなアイデアを持ちより、コンペティションを開くのです。そいう形で生産の拡大だけでない事業展開を行なっています。
――トヨタで起こった問題は10年後、20年後に中国での企業でも起こりうることです。中国で企業がそういったことを起こさないようにするには、どうすればよいでしょうか?
今回の問題は、情報の連絡が上手くいかなかった部分もあると思います。世界のどこかで起こったことは、他のどこかで起こる可能性があるのです。その状況をいち早くとらえられるようにしなければなりません。現在キヤノンでは、IT技術を使った障害管理のシステムを構築しようとしています。それが完成すれば、どこでそのような障害が、どういった原因で起こったかが瞬時に分かるようになるのです。
内田恒二 うちだ・つねじ
1941年生まれ、京都大学工学部精密工学科卒。1965年、キヤノンに入社。カメラ開発センター所長、宇都宮工場長、レンズ事業部長、カメラ事業本部長などを歴任し、2001年にイメージコミュニケーション事業本部長、2006年3月に代表取締役副社長に就任。2006年5月から代表取締役社長。銀塩一眼レフカメラ「AE-1」の開発や、IXY DIGITAL、EOS Digitalなどのデジタルカメラ事業に携わってきた。
インタビュアー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆
『月刊中国NEWS』 10年07月号掲載
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