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第36回 東日本旅客鉄道株式会社 取締役会長 大塚陸毅



現在、中国では高速鉄道の開発が盛んだ。日本・ドイツ・フランスから技術を導入し、それを活かして路線を拡大している。また、それだけでなく、アメリカをはじめとした各国の高速鉄道プロジェクトにも参加の意向を示し、中にはすでに着手しているものもある。そこで今回は、鉄道のプロであるJR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)の大塚陸毅会長に、中国の高速鉄道および日本の新幹線について聞くとともに、日本経団連の次期副会長であり観光委員会委員長という観点から、日本の観光立国にむけた取り組みや課題についてもお話をうかがった。そこからは「観光は究極の平和産業」などの名言が飛び出した。 JR東日本における国際交流事業と中国の高速鉄道建設に関して ――どのような国際交流をされていますか?


東日本鉄道文化財団では1995年度から、毎年20~30人ほどの研修生を中国から日本に受け入れており、今までで計353人を受け入れています。他のアジアの国からも研修に来ていただいていますが、中国からの研修生が圧倒的に多いですね。  交流することは非常に大切なことです。政治的にわだかまりがあるとすぐに経済活動でも支障をきたしますが、本来そうであってはならないと思います。政治は政治、民間は民間で、もっと積極的に交流するべきなのです。私は、政治家レベルでその国を知っているよりは、国民レベルでその国を知っているほうが大事であると考えます。政治では自国の立場があり、どうしても意見を通さなければならないという状況があります。ですが、民間レベルの交流は違います。その国の文化や歴史を知りたいということで行くのですから、関係が冷え切ったときこそ行って交流するべきでしょう。   ――中国は現在、外国への高速鉄道建設にも参加し始めています。こういったことをどう考えますか?  どこの国に売っていくかは、それぞれの国が判断することです。ただ、特に高速鉄道は高い安全性を確保することが極めて重要ですから、その点は細心の注意を払う必要があると思います。  日本の新幹線はしっかりと安全性を確認するために、何度も何度も列車を走らせて実験を繰り返しています。そうした努力があって、1964年に東海道新幹線が開業したのですが、それでも開業当初は慎重を期して余裕のあるスピードで走らせ、東京―大阪間を4時間かけて運行させました。そして、もう大丈夫だろうということで3時間で走らせるようにしたのです。なにしろ、世界で初めての高速鉄道でしたので慎重に慎重を重ねていました。 もう一つ高速鉄道で注意すべきはメンテナンスです。鉄道の安全運行においてメンテナンスは最も重要

な要素の一つです。高速で事故を起こすと大事故に発展します。幸い日本では、この50年近い歴史の中で、高速鉄道によるお客さまの死亡事故は一度も起こっていません。これはメンテナンスの重要性を物語っています。1度、新幹線が直下型地震に襲われたことがありました。その時はさすがに脱線こそしましたが、1人のけが人も出ませんでした。高架橋に予め耐震補強を施していたことや、日々のメンテナンスを欠かさなかった結果です。 新幹線の技術陣営は、来る日も来る日も新しい技術の開発と安全性の検証に明け暮れています。そういう積み重ねによって今があるのです。今までの50年が順調だったからといって次の50年もそうだとはいえません。ですから、努力し続けなければならないのです。  中国もまたこういった面、特に定期的にメンテナンスを繰り返して安全を確保することについてしっかりと考えながらやっていっていただければと思います。 安全と安心を大事にする ――上海を走るリニアモーターカーには乗られましたか?  

乗りました。高速鉄道にも乗ったのでそう感じたのかもしれませんが、思ったより揺れました。   ――なぜ日本にはリニアモーターカーがないのでしょう?

 今、JR東海がリニア中央新幹線計画を推進していますが、リニアは鉄道の技術とは根本的に違うものです。宙に浮いているので、厳密に言うと鉄道ではありません。1962年から開発を始め、すでに50年という非常に長い時間が経っていますが、これはリニアが新しい技術だからです。また、安全性も細かくチェックし、一つずつ問題を解決しているので時間がかかるのです。安全に関することには手を抜くことができませんから。   観光は究極の平和産業 ――大塚会長は日本経団連観光委員会の委員長もされており、JR東日本も外国人のための配慮をされていて、駅構内の案内板も日本語・英語・中国語・韓国語の表記がありますね。


そうですね。大きな駅に関しては四つの言語で表記しています。ですが、すべての駅にあるわけではないので、必ずしも十分だとはいえません。  どの国の方に多く来ていただくか、ということを考えた場合、日本に近いのは中国を含めたアジアですから、まずアジアの方々が来やすいように考えつつ、それと同時に欧米の方々のことも考えています。 そこで、アジア型の観光にどのように対応していくかということを考えなければなりません。中国や韓国に関しては観光にいらっしゃる方も多く、習慣も比較的分かっていますが、アジアにはたくさんの国がありますので、対応策を考える必要があるでしょう。例えばイスラム教徒の方は食べ物に制約がありますし、一定の時間にお祈りをしなければならないでしょう。そういった風習や文化の違いを受け入れ、楽しく滞在していただくことが大切です。   また、長い時間をかけて日本にいらっしゃる欧米の方々には、どうやってより便利に移動していただき、時間を有効に活用し楽しんでいただくかを考える必要があると思います。 ――日本が観光立国を目指すのに、どのような努力が必要だと思われますか?

 日本のことをより良く知ってもらう努力がまず必要です。実際、日本のことを良く知っている外国の方は少ないと思います。中国の人々にしても、日本のことを本当に良く知っているという人はごく僅かでしょう。ですから、そういった人々にどうやって日本を知ってもらうかが大事であり、つまり重要なのは外国への情報発信です。この点が日本は遅れていると思います。発信そのものをしていなかったり、発信していてもありきたりの発信しかしておらず、見たときに魅力を感じないのです。行ってみたいという気持ちにさせなければなりません。  また、出入国についての様々な手続きの問題もあります。各国共通の課題かもしれませんが、ビザ発給に時間がかかることなども改善が必要だと思います。     インタビュアー : 『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆 『月刊中国NEWS』 11年05月号掲載

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